皮膚の歳時記

世田谷区の皮膚形成外科、千歳台きたのクリニックです。季節の変化と皮膚の健康の関係は切っても切り離せません。季節ごとの皮膚のお話をちょっとずつお伝えします。
レーザー閑話:その4
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     前回まで、エルビウムヤグレーザーを讃える内容を書きすぎたような気がしますので、
    今回は炭酸ガスレーザーを擁護する内容を書きます。

    私のクリニックでは、エルビウムヤグレーザーが主役になったとはいえ、まだまだ炭酸ガスレーザーの出番はあります。
    炭酸ガスレーザーの利点を挙げてゆきましょう。

    1)ビームが細い。
    2)熱伝導が問題にならない組織ならばOK

    前回までに見てきたように、炭酸ガスレーザーは、周囲にどうしても熱を伝えてしまいますので、熱がまわりの皮膚に伝わりづらい組織なら、熱伝導の問題は生じません。
    また、ビームの細さは、最低で0.2个函▲┘襯咼Ε爛筌哀譟璽供爾1个5分の1ですから、ものすごく小さな対象を治療する場合には有利です。

    この点、首のアクロコルドン(首のイボ)は、皮膚から突出した小さい構造物です。熱の大半は空気中に放散し、皮膚に伝わりにくいので、炭酸ガスレーザーでも大丈夫です。また、ものすごく小さいイボに対しては、ビームが細い炭酸ガスレーザーの特徴を生かすことができます。

    さらに、メスのように「切り取る」目的で使用するためには、ビームが細く、止血作用がある炭酸ガスレーザーが有利です。

    3)止血作用がある。
    照射部位にタンパク変性を起こすことは、組織を壊死させることではありますが、止血させることでもあります。止血が必要な治療には、積極的に炭酸ガスレーザーを使用します。

    4)水分が多い組織では、スムーズな蒸散となる。
    炭酸ガスレーザーは、水分の少ない組織では焦げやすく、多い組織では、純粋な「蒸散」に近づきます。
    脂肪線維腫のような水が多い組織ならば、炭酸ガスレーザーでも理想的な蒸散に近い治療になります。

    逆に、組織内深くまで蒸散させなければいけない対象物、たとえば、ほくろや汗管腫、脂腺増殖症などでは、周囲の皮膚に熱が伝わりづらいエルビウムヤグレーザーが圧倒的に有利です。

    こんなかんじで、エルビウムヤグにこだわっているわけではなく、時と場合により、使い分けています。
    | kitanohifukei | レーザー | 20:00 | - | - | - | -
    レーザー閑話:その3
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       卵をうっかり電子レンジにかけて、粉々に爆発させた経験はお持ちではないでしょうか。
      エルビウムヤグレーザーの反応は、この現象によく似ています。
      電子レンジは水分子を選択的に振動させます。水が急に蒸発することにより、水を包んでいた組織の中では急激な膨張が起こり、卵は爆発します。卵のタンパク質は固形の粉となって飛び散ります。

      エルビウムヤグレーザーで起こる「蒸散」も、「電子レンジの爆発卵」と同じく、「水の急激な蒸発による爆発」です。ただし、卵のような大爆発ではなく、せいぜい直径1-3ミリの小爆発です。

      さて、同じエネルギー量の炭酸ガスレーザーとエルビウムヤグレーザーを照射してみます。
      照射する対象は、前回と同様、水分を豊富に含む組織です。

      エルビウムヤグを照射すると、エネルギーが小さいボリュームに凝縮されますから、1パルスで水分子はごく短時間に蒸発し、「爆発」を起こします。タンパクは粉々になり、吸引器へ吸い込まれます。これが、「蒸散」です。
      この時の温度は100℃を超えません。
      これに対して、炭酸ガスレーザーを照射されると、エネルギーがより大きい組織に分散吸収されます。このため、温度上昇は非常に緩やかで、一回のパルスででは100℃の蒸発温度に達しません。

      炭酸ガスレーザーでは、2パルス、3パルスと、パルスを重ねるごとに徐々に温度が上がり、10ショット終了したところで100℃に達するので、「蒸散」が起こるはずです。

      2パルスまで

       


      それならば、10回照射すれば両方とも同じ結果になるような気もします。
      しかし、10回照射するために費やした時間はそこそこ長く、
      その間に、照射部位に蓄えられた熱エネルギーは、周囲の組織へ逃げて行ってしまいます。

      その結果、照射された部位の温度はそれほど上がりません。100℃にならない部分も出てくるでしょう。ついでに、周囲の組織も、ゆっくりと温度が上がります。
      短時間で目的部位が100℃に達するエルビウムヤグレーザーと異なり、
      炭酸ガスレーザーでは、広い範囲で60℃ー90℃ぐらいの温度がじりじりと続きます。
      この温度帯では、タンパク質が変性して固くなるとともに、水がゆっくり抜けてゆきます(水は100℃未満でも少しずつ蒸発します)。
      水が少しずつ失われるので、「急激な膨張」による「爆発」が起こりづらくなります。

      繰り返し照射するうちに、事実上、「水がなくなってしまう」部分ができます。すると、
      「水のない組織」へ照射するのと同じ現象が起こります。

              溶き卵をフライパンで弱火にかけると、タンパクが固まるとともに、
              ゆっくりと蒸発してカラカラの干物のような状態になります。
              次に「焦げ」が始まります。
              こんな状態を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。

      高野豆腐の実験に見られたように、「水分の少ない」組織に炭酸ガスレーザーを照射すると、100℃どころか300℃以上に温度が上昇し、燃焼と炭化を起こします。
      照射を受けた部位は、300℃で炭化・崩落するまで、組織内にとどまりますので、2次的なやけどの原因となります。

      しかも・・・「高野どうふ」と違い、生体では「生命である」ことを維持できる温度の上限が60℃ぐらいなので、60℃を超えてしまった組織は、「死ぬ(壊死する)」ことになります。

      ここでようやくつながりましたね。
      炭酸ガスレーザーを主語として話をつなぐと、

      炭酸ガスレーザーでは水の吸収が10分の1と弱い

      照射対象と周囲組織の温度がゆっくり上がる。

      タンパク質の変性と脱水が起こる。

      「水分量の少ない」部分ができる。

      レーザーー照射を続けると、蒸散されず、温度が300℃付近まで上昇する。

      焦げる

      炭酸ガスレーザーでは、
      蒸散されずに変性・壊死する残存組織も「レーザーによって失われる」組織です。
      したがって、目で見えるよりも多くの組織が「失われる」結果になります。

      炭酸ガスレーザーで「変性・脱水・壊死」をできるだけ回避するためには、葛西健一郎先生が述べられているように、「強いパワーで照射する」必要があります。これには非常に高度な技術が必要です。
      しかも、

       


      このような繊細な芸術品を彫るとき、一刀のもとに目的の形に達することは不可能でしょう。
      実際は、少しずつ丁寧に削ってゆくしかありません。

      レーザーと彫刻品では、話が違いすぎるのは確かですが、
      ほくろなどを治療するときには、術者のイメージ通りの深さと形で削るために、時間をかけて微調整を行うことは必須なのではないでしょうか。
      「少しずつ丁寧に削る」。これは炭酸ガスレーザーでは許されなかった行為ですが、
      エルビウムヤグレーザーでは可能となりました。

      | kitanohifukei | レーザー | 21:50 | - | - | - | -
      レーザー閑話:その2
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         さて、前回は、炭酸ガスレーザーとエルビウムヤグレーザーについて、次のことを述べました。

        1)いずれも、水分がない組織では「燃焼・炭化」が起こり、組織温度は300℃に達する。
        2)水分が豊富な組織では、エルビウムヤグレーザーでは、ほぼ100%「蒸散」が起こり、最高温度は100℃である。炭酸ガスレーザーでは、蒸散も起こるが、燃焼・炭化も部分的に起こるため、局所的に300℃に達する。

        もちろん、「水分がない」組織と「水分が豊富」の中間ぐらいの組織、たとえば「水分がちょっとある」組織なんかでは、エルビウムヤグレーザーでも「炭化」は起こります。ですから、これは、「蒸散」と「燃焼」の割合の問題であり、エルビウムヤグレーザーのほうが、「蒸散」比率が高いと解釈するほうがより正確です。

        ではなぜ、エルビウムヤグのほうが「蒸散」割合が大きく、炭酸ガスレーザーのほうが「炭化(焦げ)」割合が大きいのか。
        この疑問について、インターネットなどで調べると、多くのサイトが以下のように説明しています

        「エルビウムヤグレーザーは水への吸収が炭酸ガスレーザーの10倍なので、焦げないシャープな切れ味になる。」

        ・・・・・・・

        この説明で分かる人は素晴らしい!!
        私はぜーんぜんわからなくて、頭を抱えてしまいました。
        この文脈、

        「水への吸収が10倍」→ブラックボックス→「焦げない」

        ではないでしょうか。端折りすぎじゃないかなあ・・・

        この問題はまず、「水への吸収とは何か」から考えなくてはいけません。
        「10倍」なんて、具体的な数値が書いてあるからには、もととなる数式があります。

        「ランベルト・ベールの法則」
        という有名な数式なのですが、数式を書くと頭が痛くなる人もいるかもしれないので、できるだけ省きます。

        「水への吸収が10倍」というのは「吸光係数が10倍」を言い換えたものです。
        この法則から私たちが欲しい情報を抜き出すと、


        「吸光係数」と「一定量のエネルギーが減衰するのに必要な距離」は反比例の関係になります。

        なお、この部分については、以前ブログでご紹介した松尾先生にヒントをいただきました。

        つまり、吸光係数が10倍だと、同じ量の光エネルギーが組織に吸収されるまでに光が進む距離は10分の1になります。
        「水への吸収係数」で考えていますので、ここでの「組織」とは、相当水っぽい組織を考えています。
        99%水分のクラゲやこんにゃく、
        80%水分の「高野豆腐モデル」
        あるいは、70%水分の皮膚など。

        エルビウムヤグレーザーでは、同じ量の光エネルギーが、炭酸ガスレーザーの10分の1のボリュームの組織で吸収されます。
        吸収された光エネルギーは、すぐに熱エネルギーに転換されます。
        つまり・・・

        エルビウムヤグレーザーでは、小さい組織の中に高いエネルギーが凝縮されますので、急激に温度が上昇します。

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        これで「炭酸ガスレーザーでは焦げるけれど、エルビウムヤグでは焦げない」につながりましたか?
        まだつながらないですよね。
        「え?炭酸ガスレーザーのほうが温度が上がるんじゃなかったっけ?」みたいな疑問も出てくるかもしれません。
        もうひとひねり、必要です。

        | kitanohifukei | レーザー | 22:50 | - | - | - | -
        レーザー閑話:その1
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          エルビウムヤグレーザーを導入してから2年。当院では、炭酸ガスレーザーの出番がめっきり減り、代わりにエルビウムヤグレーザーが頻繁に登場します。
          なぜ、エルビウムヤグレーザーでは、炭酸ガスレーザーに比べて周囲への熱ダメージが少ないのか、いろいろ調べてもあまり納得のゆく答えが得られなかったので、ひとつ、実験をしてみました。

          使用したのは、「旭松の高野豆腐」。
          「高野豆腐」を選んだ理由は、これが生体と同様、ほぼタンパク質でできていることと、乾物の状態では「水なし」の反応を、水を含ませると「水あり」の反応を見ることができるためです。
          また、「水あり」では、水分の割合が80%と、人間の皮膚にかなり近い水分量になるのも、モデルとしては魅力的です。

          kouya

          ・・・乾いた状態と水を含んだ状態ではかなり反応が違うことがわかります。

          一般的に、「蒸散系レーザー」は、「水に反応する・水を吸収する」点のみが強調されます。でも、実際は「水がない状態でのタンパク質」への反応を考慮せずに、レーザーの性質を語ることはできません。
          しかも、上の写真で分かるように、水があるときとないときでは、その反応が全く異なるのです。

          水がない時の反応は「燃焼・炭化」です。炭化すると、組織は崩壊しますので、それ以上温度は上がりません。したがって、「水がないときには、炭化温度、すなわち300℃ぐらいの熱が出る」といえます。これは、炭酸ガスレーザーにもエルビウムヤグレーザーにも言えることです。

          これに対して、下の「水あり」の実験。
          エルビウムヤグレーザーを照射すると、炭化が起こらないのに組織が消えています。
          これが正真正銘の「蒸散」反応です。すなわち、水を瞬間的に蒸発させるときの爆発力で組織が粉々に破壊されているのです。
          水の蒸発温度は100℃ですから、温度は100℃より上がりません。

          一方、水ありの組織に炭酸ガスレーザーを照射すると、蒸散だけではなく、部分的に炭化も起こっています。したがって、部分的には300℃ぐらいに達しているのでしょう。

          このように、「燃焼」と「蒸散」の割合が、レーザー治療のクオリティを決定します。
          一般に炭酸ガスレーザーはエルビウムヤグレーザーに比べて「燃焼・炭化」の割合が大きいのですが、組織の水分量によっても大きく左右されます。

          人間の皮ふは70%水分であるといわれていますので、スムーズな「蒸散」を期待できるような気がします。
          しかし、治療の対象は「正常な皮膚」ではなく、「腫瘍」という異常な構造物です。腫瘍の種類によっては水分量が少ないこともあります。ですから、「炭酸ガスレーザーの臨床的反応は『蒸散』である」というのが成り立たない場面も多々あるのです。

          というわけで、「エルビウムヤグレーザーが炭酸ガスレーザーに比べて組織損傷が少ない理由」:
          炭酸ガスレーザーは、水分豊富な組織あっても300℃付近まで温度が上がるのに対して、エルビウムヤグレーザーは100℃より上がらない。
          これが大きな理由となっているのではないでしょうか。

          では、なぜエルビウムヤグレーザーではスムーズな「蒸散」がおこるのか?(NHKみたいですね)
          それは、後日また、ブログでお話したいと思います。

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          ところで、炭酸ガスレーザーを照射された組織の温度については、異論があります。
          首をかしげてしまうのが、あるレーザー会社のサイトでの説明です。

          「炭酸ガスレーザーでは1500℃に達して、組織が『気化する』。これを『蒸散』という」と書かれています。
          この件は、以前「コピペのサイエンス」という題名で書いたようないきさつがあり、会社のほうは間違いを認めたのですが、その後もHP上の記載を変えていないようです。
          http://saijiki.kitanohifukeisei.com/?day=20100718
          1500℃の根拠を会社の人も示すことができないので、なぜ1500℃なのか、いまだ持ってわかりません。
          別のレーザー会社の技術者に意見を求めたところ、「1500℃はあり得ない」とのことでした。

          また、もう一つの異論は、ある皮膚科の教科書。
          「炭酸ガスレーザーでは温度は100℃以上に上がらない」と書かれています。
          これは、1500℃よりは誠実な記載だと思いますが、100℃では炭化は起こりません。
          「純粋な蒸散反応では100℃以上に上がらない」という文ならば納得できます。
          現実には、炭酸ガスレーザーの「蒸散」が不完全なため、100℃を超えて300℃ぐらいまで達してしまっているのではないでしょうか。

          さて、炭酸ガスレーザーにおける到達温度は、100℃?、300℃?、1500℃?
          私はやはり、炭化が起こる状況においては、300℃付近ではないかと思っています。

          こういう遊びは一見診療と関係なさそうに見えますが、
          どういう組織にどのレーザーを、どのぐらいの強さで照射するかを決定するヒントになります。
          ちなみに、高野豆腐はその夜のおかずとしておいしくいただきました。
          | kitanohifukei | レーザー | 22:47 | - | - | - | -
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