皮膚の歳時記

世田谷区の皮膚形成外科、千歳台きたのクリニックです。季節の変化と皮膚の健康の関係は切っても切り離せません。季節ごとの皮膚のお話をちょっとずつお伝えします。
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診断は何であれ・・・
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    近年、治療方法に「エビデンス」があるかどうかを問われるようになりました。
    「エビデンス=証拠」、とは、その治療の効果を科学的に証明できる証拠です。
    新薬には、高いエビデンスレベルを求められるので、発売前に厳しい臨床試験が課されます。
    しかし、これは、あくまでも新しい薬の場合です。

    昔は薬を世に出すために、今ほど厳しい臨床試験は必要ありませんでした。
    いわゆる「古くからの薬」は、「エビデンスが不明(科学的証拠が薄弱)」なものもあります。
    しかし、「科学的に証明されていない」ことと「有効ではない」ことは、完全に一致するとはかぎりません。
    教科書や先輩から「この薬を使用するといいよ」と教育され、患者さんから長く支持されてきた薬を、そう簡単に否定するわけにはいかないとおもいます。

    古い薬に対しても、あらためて臨床試験を行って科学的に有効性を証明すればば済む話ですが、
    臨床試験には、莫大なコストと労力がかかります。
    コストに対してメリットが見込まれない場合、改めて臨床検査を行われることは滅多にありません。

    トラネキサム酸も、そのような伝統薬の一つでした。
    前掲「新しい皮膚科」という教科書には、「肝斑にはトラネキサム酸が『使用される』」と書かれており、
    「有効である」という書かれ方はしていません。
    さすが教科書です。エビデンスのレベルをきっちりと抑えています。
    トラネキサム酸は、「肝斑治療薬として慣習的に使用されているが、有効であるかどうかは本書には記さない」という意図が感じられます。

    ところが、最近、肝斑治療薬としてトラネキサム酸市販薬を販売する会社の支援を得、大学病院などの複数の施設において臨床試験が行われました。
    ホームページにも臨床試験の結果の一部が公開されています。
    また、この臨床試験の論文は、立派な医学雑誌に掲載されています。
    ようやくトラネキサム酸の肝斑への効果が科学的に証明されるようになった!と、ウェルカムな気持ちで論文を読みました。

    当然ながら、論文の結論は、「トラネキサム酸を内服した患者さんの肝斑は、色が薄くなった」というものでした。
    しかし、この臨床試験、実は「二重盲検法をした」、と書かれていないのです。
    二重盲検法とは、本物の薬と偽の薬を用意して、患者さんにも判定者にも、だれが本物の薬を内服したかをわからない状態にして試験を行う方法です。
    たとえば、「肥料に新成分Aを加えて大根を育てると、大根がおいしくなる」ということを証明するためには、
    成分Aが入っていない肥料で育てた場合と比較する必要があります。
    また、判定者に先入観が入らないよう、新成分Aが入った肥料で育った大根とそうでない大根をわからないようにして食べ比べをする必要があります。
    ところが、トラネキサム酸の臨床試験論文では、偽薬との比較が載っていません。なぜそうしなかったかの理由も書かれていません。
    「新成分Aで育てた大根はおいしいですねえ」という事実は間違いないでしょうが、それが肥料Aのせいかどうかは、結局わからずじまい、というのと同じです。

    「薬を内服したら、色が薄くなったのだから、それでいいじゃないか」と思われる方もいるかもしれません。
    しかし、肝斑は、季節的な影響でも薄くなりますし、皮膚を優しく扱うことでも薄くなります。
    そのような周辺環境の影響を排除しないと、薬の本当の効果は評価できません。

    さらに、論文の中には「シミがない正常な皮膚も明るい色になった」と書かれています。
    これの解釈は
    1)トラネキサム酸を内服すれば肝斑だけでなく、顔全体が色白になる。
    2)この臨床試験は、肝斑以外の色素も白くなる環境で行われた。
    の二通りあります。

    この結果は、先ほどの大根の例で言えば、「新成分Aが入った肥料を与えたら、大根だけでなく周りの雑草も元気に育った」という現象が起こっているのですが、それが新成分Aのせいかどうか、結論を出すためには、
    「新成分Aが入らない肥料」で育てた場合と比較する必要があります。

    結局、1)と2)どちらが正しいかは、二重盲検法を行わなければわかりません。

    せっかくトラネキサム酸の効果を科学的に証明するチャンスだったのに、
    エビデンスはうやむやになってしまいました。
    もったいない話です。

    前回まで、診断のダブルスタンダードについて記述してきましたが。
    「この薬が『肝斑に有効』」ということ自体、いまだ科学的に証明されていない、となると、
    診断が正しいかどうかを問題にすること自体あまり意味がないことになります。

    繰り返しますが、必ずしも「エビデンスを証明できていない」イコール「効かない」というわけではありません。
    「効くといわれている」と、「効くことが証明された」のニュアンスの差を感じていただきたいと思います。
     
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