皮膚の歳時記

世田谷区の皮膚形成外科、千歳台きたのクリニックです。季節の変化と皮膚の健康の関係は切っても切り離せません。季節ごとの皮膚のお話をちょっとずつお伝えします。
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レーザー閑話:その3
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     卵をうっかり電子レンジにかけて、粉々に爆発させた経験はお持ちではないでしょうか。
    エルビウムヤグレーザーの反応は、この現象によく似ています。
    電子レンジは水分子を選択的に振動させます。水が急に蒸発することにより、水を包んでいた組織の中では急激な膨張が起こり、卵は爆発します。卵のタンパク質は固形の粉となって飛び散ります。

    エルビウムヤグレーザーで起こる「蒸散」も、「電子レンジの爆発卵」と同じく、「水の急激な蒸発による爆発」です。ただし、卵のような大爆発ではなく、せいぜい直径1-3ミリの小爆発です。

    さて、同じエネルギー量の炭酸ガスレーザーとエルビウムヤグレーザーを照射してみます。
    照射する対象は、前回と同様、水分を豊富に含む組織です。

    エルビウムヤグを照射すると、エネルギーが小さいボリュームに凝縮されますから、1パルスで水分子はごく短時間に蒸発し、「爆発」を起こします。タンパクは粉々になり、吸引器へ吸い込まれます。これが、「蒸散」です。
    この時の温度は100℃を超えません。
    これに対して、炭酸ガスレーザーを照射されると、エネルギーがより大きい組織に分散吸収されます。このため、温度上昇は非常に緩やかで、一回のパルスででは100℃の蒸発温度に達しません。

    炭酸ガスレーザーでは、2パルス、3パルスと、パルスを重ねるごとに徐々に温度が上がり、10ショット終了したところで100℃に達するので、「蒸散」が起こるはずです。

    2パルスまで

     


    それならば、10回照射すれば両方とも同じ結果になるような気もします。
    しかし、10回照射するために費やした時間はそこそこ長く、
    その間に、照射部位に蓄えられた熱エネルギーは、周囲の組織へ逃げて行ってしまいます。

    その結果、照射された部位の温度はそれほど上がりません。100℃にならない部分も出てくるでしょう。ついでに、周囲の組織も、ゆっくりと温度が上がります。
    短時間で目的部位が100℃に達するエルビウムヤグレーザーと異なり、
    炭酸ガスレーザーでは、広い範囲で60℃ー90℃ぐらいの温度がじりじりと続きます。
    この温度帯では、タンパク質が変性して固くなるとともに、水がゆっくり抜けてゆきます(水は100℃未満でも少しずつ蒸発します)。
    水が少しずつ失われるので、「急激な膨張」による「爆発」が起こりづらくなります。

    繰り返し照射するうちに、事実上、「水がなくなってしまう」部分ができます。すると、
    「水のない組織」へ照射するのと同じ現象が起こります。

            溶き卵をフライパンで弱火にかけると、タンパクが固まるとともに、
            ゆっくりと蒸発してカラカラの干物のような状態になります。
            次に「焦げ」が始まります。
            こんな状態を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。

    高野豆腐の実験に見られたように、「水分の少ない」組織に炭酸ガスレーザーを照射すると、100℃どころか300℃以上に温度が上昇し、燃焼と炭化を起こします。
    照射を受けた部位は、300℃で炭化・崩落するまで、組織内にとどまりますので、2次的なやけどの原因となります。

    しかも・・・「高野どうふ」と違い、生体では「生命である」ことを維持できる温度の上限が60℃ぐらいなので、60℃を超えてしまった組織は、「死ぬ(壊死する)」ことになります。

    ここでようやくつながりましたね。
    炭酸ガスレーザーを主語として話をつなぐと、

    炭酸ガスレーザーでは水の吸収が10分の1と弱い

    照射対象と周囲組織の温度がゆっくり上がる。

    タンパク質の変性と脱水が起こる。

    「水分量の少ない」部分ができる。

    レーザーー照射を続けると、蒸散されず、温度が300℃付近まで上昇する。

    焦げる

    炭酸ガスレーザーでは、
    蒸散されずに変性・壊死する残存組織も「レーザーによって失われる」組織です。
    したがって、目で見えるよりも多くの組織が「失われる」結果になります。

    炭酸ガスレーザーで「変性・脱水・壊死」をできるだけ回避するためには、葛西健一郎先生が述べられているように、「強いパワーで照射する」必要があります。これには非常に高度な技術が必要です。
    しかも、

     


    このような繊細な芸術品を彫るとき、一刀のもとに目的の形に達することは不可能でしょう。
    実際は、少しずつ丁寧に削ってゆくしかありません。

    レーザーと彫刻品では、話が違いすぎるのは確かですが、
    ほくろなどを治療するときには、術者のイメージ通りの深さと形で削るために、時間をかけて微調整を行うことは必須なのではないでしょうか。
    「少しずつ丁寧に削る」。これは炭酸ガスレーザーでは許されなかった行為ですが、
    エルビウムヤグレーザーでは可能となりました。

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