皮膚の歳時記

世田谷区の皮膚形成外科、千歳台きたのクリニックです。季節の変化と皮膚の健康の関係は切っても切り離せません。季節ごとの皮膚のお話をちょっとずつお伝えします。
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レーザー閑話:その1
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    エルビウムヤグレーザーを導入してから2年。当院では、炭酸ガスレーザーの出番がめっきり減り、代わりにエルビウムヤグレーザーが頻繁に登場します。
    なぜ、エルビウムヤグレーザーでは、炭酸ガスレーザーに比べて周囲への熱ダメージが少ないのか、いろいろ調べてもあまり納得のゆく答えが得られなかったので、ひとつ、実験をしてみました。

    使用したのは、「旭松の高野豆腐」。
    「高野豆腐」を選んだ理由は、これが生体と同様、ほぼタンパク質でできていることと、乾物の状態では「水なし」の反応を、水を含ませると「水あり」の反応を見ることができるためです。
    また、「水あり」では、水分の割合が80%と、人間の皮膚にかなり近い水分量になるのも、モデルとしては魅力的です。

    kouya

    ・・・乾いた状態と水を含んだ状態ではかなり反応が違うことがわかります。

    一般的に、「蒸散系レーザー」は、「水に反応する・水を吸収する」点のみが強調されます。でも、実際は「水がない状態でのタンパク質」への反応を考慮せずに、レーザーの性質を語ることはできません。
    しかも、上の写真で分かるように、水があるときとないときでは、その反応が全く異なるのです。

    水がない時の反応は「燃焼・炭化」です。炭化すると、組織は崩壊しますので、それ以上温度は上がりません。したがって、「水がないときには、炭化温度、すなわち300℃ぐらいの熱が出る」といえます。これは、炭酸ガスレーザーにもエルビウムヤグレーザーにも言えることです。

    これに対して、下の「水あり」の実験。
    エルビウムヤグレーザーを照射すると、炭化が起こらないのに組織が消えています。
    これが正真正銘の「蒸散」反応です。すなわち、水を瞬間的に蒸発させるときの爆発力で組織が粉々に破壊されているのです。
    水の蒸発温度は100℃ですから、温度は100℃より上がりません。

    一方、水ありの組織に炭酸ガスレーザーを照射すると、蒸散だけではなく、部分的に炭化も起こっています。したがって、部分的には300℃ぐらいに達しているのでしょう。

    このように、「燃焼」と「蒸散」の割合が、レーザー治療のクオリティを決定します。
    一般に炭酸ガスレーザーはエルビウムヤグレーザーに比べて「燃焼・炭化」の割合が大きいのですが、組織の水分量によっても大きく左右されます。

    人間の皮ふは70%水分であるといわれていますので、スムーズな「蒸散」を期待できるような気がします。
    しかし、治療の対象は「正常な皮膚」ではなく、「腫瘍」という異常な構造物です。腫瘍の種類によっては水分量が少ないこともあります。ですから、「炭酸ガスレーザーの臨床的反応は『蒸散』である」というのが成り立たない場面も多々あるのです。

    というわけで、「エルビウムヤグレーザーが炭酸ガスレーザーに比べて組織損傷が少ない理由」:
    炭酸ガスレーザーは、水分豊富な組織あっても300℃付近まで温度が上がるのに対して、エルビウムヤグレーザーは100℃より上がらない。
    これが大きな理由となっているのではないでしょうか。

    では、なぜエルビウムヤグレーザーではスムーズな「蒸散」がおこるのか?(NHKみたいですね)
    それは、後日また、ブログでお話したいと思います。

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    ところで、炭酸ガスレーザーを照射された組織の温度については、異論があります。
    首をかしげてしまうのが、あるレーザー会社のサイトでの説明です。

    「炭酸ガスレーザーでは1500℃に達して、組織が『気化する』。これを『蒸散』という」と書かれています。
    この件は、以前「コピペのサイエンス」という題名で書いたようないきさつがあり、会社のほうは間違いを認めたのですが、その後もHP上の記載を変えていないようです。
    http://saijiki.kitanohifukeisei.com/?day=20100718
    1500℃の根拠を会社の人も示すことができないので、なぜ1500℃なのか、いまだ持ってわかりません。
    別のレーザー会社の技術者に意見を求めたところ、「1500℃はあり得ない」とのことでした。

    また、もう一つの異論は、ある皮膚科の教科書。
    「炭酸ガスレーザーでは温度は100℃以上に上がらない」と書かれています。
    これは、1500℃よりは誠実な記載だと思いますが、100℃では炭化は起こりません。
    「純粋な蒸散反応では100℃以上に上がらない」という文ならば納得できます。
    現実には、炭酸ガスレーザーの「蒸散」が不完全なため、100℃を超えて300℃ぐらいまで達してしまっているのではないでしょうか。

    さて、炭酸ガスレーザーにおける到達温度は、100℃?、300℃?、1500℃?
    私はやはり、炭化が起こる状況においては、300℃付近ではないかと思っています。

    こういう遊びは一見診療と関係なさそうに見えますが、
    どういう組織にどのレーザーを、どのぐらいの強さで照射するかを決定するヒントになります。
    ちなみに、高野豆腐はその夜のおかずとしておいしくいただきました。
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