自費診療は、「これこれの価格でこういう治療を行います」ということを、患者さんと医師がお互い了解してスタートする診療です。
そこには、基本的に「緊急性」はありません。
また、「主観的な必然性(患者さん本人は必要だと思っている)」、はあっても客観的な必然性はあまりありません。
「緊急性、必然性がある診療は健康保険がカバーすべきである」「保険医療は『善』である」という考えが、日本の保険医療の根幹である・・・と思っていたのですが、
残念ながら、この「根幹」は必ずしも万能ではありません。
私の身近な診療で感じるのは「陥入爪」治療。
私が医師になったころの主流は「楔状切除法」という手術。
これは陥入している部分を、皮膚ごと爪母までざっくりと切り込み、太いナイロン針で皮膚の上に爪を重ね合わせる方法です。
この方法は、保険適応でした。
次に主流になったのは「フェノール法」。
この方法も、時を経ずして、保険適応となりました。
ところが、数年前から、「フェノール法は悪い方法である」との主張が出てきました。
フェノール法を受けた後に、かえって爪の状況が悪くなった例を多数提示し「フェノール法はやってはいけない」とまで言われるようになりました。
フェノール法への弾劾は、それに代わる「矯正法」の出現に伴って起こったものです。
まあ、矯正法が優れているのはわかるのですが、そこまで過激にフェノール法を責めるべきではないだろう、と私は思ってしまいます。
実際、フェノール法でうまくいっているケースのほうが圧倒的に多いのです。
かくいう私も、この数年間で「矯正」を取り入れるようになってきました。
私の医院では幸い、かのアンチ・フェノール法医師が示すような「フェノール法で悪化した」ケースはなく、ほぼ平和な結果となっています。
にもかかわらず、矯正のほうが優れていると思われるケースが増えてきました。
純粋に「科学的:医療的」な見地から考えると、かつて(矯正法がなかった時代に)フェノール法を行っていたケースのうち、約50%は矯正法のほうが良く、30%はどちらでも良いように思われます。
なんといっても「切らずに済む」というのは、患者さんにとってうれしいことではないでしょうか。
陥入爪による痛みは、ワイヤーをかけたその瞬間からなくなります。
フェノール法と違い、治療によって爪の幅が狭くなりません。
治療自体が痛くなく、出血しません。
ただし、ワイヤーを外すと、陥入爪の状態に戻ります。
フェノール法の利点は、「根治術である」点です。
フェノール法は、爪の形にもよりますが、基本的に再発しません。
爪の形によってはフェノール法ではうまくゆかない場合があります。
治療現場では、爪の形・状態による適応や、患者さんの希望を伺いながらどちらかの方法を選択します。
しかし、この選択は、「公平な選択」と言えるのでしょうか。
フェノール法は保険適応ですが、矯正法には保険が適応されません。
陥入爪には、「緊急性」があります。患者さんは痛くて痛くてしょうがないのです。日常生活がつらくてたまらないので、なるべく早い治療が必要です。
「痛いから何とかしてほしい」と訴える患者さんに対して、
「保険のフェノール法が良いか、自費の矯正が良いか?」という選択肢をどう提示するか・・・
保険診療よりも自費の矯正法が「優れている」と思う場面が多いだけに、悩みが多いこの頃です。
私の基本方針として、可能な限り、「値段の安い高い」が選択の土俵に上らないようにしたいと考えています。
でないと、「本当は好ましくないけれども、値段の問題で保険診療を選択した」ということが起こりやすくなります。